「図書館を変えるために、学び、つながる。」タマシイ塾第1期、閉講!

 昨年10月26日に開講した「課題解決支援のための<公共図書館員のタマシイ塾>」(以下、「タマシイ塾」)は、今年3月8日に全7回のプログラム(7回のうち5回は静岡市内、残り2回は1泊2日の合宿で神奈川県内及び東京都内)を終え、ひとまず閉講しました。


 合宿に参加できなかった1人を除き、東京から大分まで全国各地で働く22人の現役図書館員のうち21人が休まず出席し、全員が修了証を手にすることができました。これ自体、すばらしい成果だと思います。でも、そこで満足しているわけではありません。


 現在、企画運営委員を中心に、第2期以降のタマシイ塾のあり方と、第1期の塾生(修了生)が修了課題に答えることで生まれた企画の事業化の方法を検討しています。事業を実施する中で生まれた膨大なコンテンツを生かした出版事業や、修了生のためのアドバンスト・コースを望む声もあります。個人的には、修了生には図書館のあり方を変えるというココロザシを忘れずに、自らの「貢献」や「活動」を通じて学ぶことと、自らネットワークを切り開いていくことをあきらめないで欲しいし、その力量はすでにあると考えています。


 以下に、タマシイ塾の特徴と思われる点を、7つ挙げてみます。タマシイ塾は、これらの特徴によって従来の図書館研修の場と一線を画し、独自の存在意義を確立したと思うのです。


ア 非・官製:主催者は、もっとも熱く「よい図書館」を望む市民団体(静岡図書館友の会)であり、その一方で、財源はすべて図書館振興財団からの助成金でした。事務局としての業務の大部分は株式会社マナビノタネが担いました。静岡市立中央図書館は静岡図書館友の会の共催機関として、PRや会場確保に協力しました。このような組み合わせだったからこそ、企画の持ち上がった2009年4月からわずか半年での開講が可能となったのです。この協働は、あくまでもそれぞれの団体・機関の強みを活かし、相乗効果が生じることをねらったものです。


イ 多様性:変革は多様な思想や意見の自由な交流から生まれます。第1期では、塾生(22人中11人が非正規職員・民間スタッフ、10人が静岡県外在住)、講師(公共図書館員は7人中1人)、委員(公共図書館員は6人中2人)が、対等に意見を言い合い、それぞれの意志と能力と機会に応じて貢献する関係を作ることができました。その教育的効果は計り知れないと思います。


ウ 無償性:塾生からは受講料を取らず、遠隔地からの塾生には交通費を助成しました。それは主催者の側に伝えたいことがあったからです。こうした措置によって、多くの非正規職員や静岡県外在住者の入塾が可能となり、イの多様性が保障されました。


エ イノベーション志向:目標は、新しい課題解決支援サービスを「プロデュースできる」図書館員を育てることにありました。それゆえ、すでにあるもののキャッチアップはめざしません。また、アイデアの段階にとどまらず、事業化可能なところまでやり抜く力を養うことに力点を置きました。


オ アウトプット志向:座学によるインプットは最低限にとどめ、塾生同士あるいは塾生と講師・委員が話し合い、観察し、書き、手を動かすワークショップと、アンケートによる振り返り(及びメーリングリストによるその共有化)を重視しました。修了課題、すなわち最高のアウトプットに向けたプログラム構成です。修了課題では塾生一人ひとりにとっての「原点」や「立ち位置」を確認したうえで、アイデアの発想から事業化までを考え抜いてもらったのです。修了課題作成のため、塾生を開講の時点から3チームに分け、コミュニケーション手段として専用SNSの掲示板を提供しました。アンケート、SNS及び宿題を合わせて読むと、多くの塾生が膨大なテキストを書くことを通じて成長のきっかけをつかんでいったことが分かります。


カ 暗黙知志向:タマシイ塾は、これまでは図書館関係団体に所属することで長期間をかけて達成されていたような「暗黙知」を短期間に伝達することを目指しました。


キ ネットワーク志向:成果は職場や自己の内側で完結するのでなく、孤立した館、分断された地域で戦いながらもココロザシを同じくする図書館員が励ましあい支えあうネットワーク形成を目指しました。研修の中で完結せず、Web上への公開アーカイブのアップロードや、修了課題として提案される事業の現実化等により、全国に図書館変革の「波」を起こすことがねらいです。


 以上の7つの特徴のうち、エ以降の4つについては、それぞれ、イノベーション志向にキャッチアップ志向を、アウトプット志向にインプット志向を、暗黙知志向に形式知志向を、そしてネットワーク志向に自己(職場)完結志向を対置することができるでしょう。一言述べておきたいのは、志向性の違いは図書館員研修の優劣を意味しないというものの、従来の図書館員研修にはかなり偏りがあったり、目的と手法の食い違いがあったりするのではないか、ということです。タマシイ塾で試みているさまざまな手法を応用することで、こうした問題点を改善することも可能でしょう。


 紙幅の関係で、タマシイ塾第1期のプログラムや終了課題を掲載することができませんでした。ぜひ、「公共図書館員のタマシイ塾」公式ウェブサイトを参照してください。講座の中身も順次、アーカイブとして公開されつつあります。URLは以下のとおり。


http://t-juku.org/


豊田高広(静岡市御幸町図書館から4月1日より田原市図書館に移籍)