「図書館の通信簿」の試み。

静岡市御幸町図書館で行われた「図書館の通信簿」の実施報告です。


タマシイ塾では、最終回(3月8日)「利用者が図書館を評価する」講座を行いました。講師は、利用者参加型の評価ツアー「ミュージアムの通信簿」を実践している山本育夫氏(NPO法人つなぐ代表)です。山本氏の実践については
  http://www2a.biglobe.ne.jp/~yamaiku/pj/eva.htm   
をご覧下さい。

まず受講生が「図書館の通信簿」の評価項目を挙げていき、それを「NPOつなぐ」で通信簿形式に作り上げました。


「通信簿」のイベントは、公共施設を利用者の目から見て評価し、改善に役立てて貰うことが眼目です。が、そればかりではなく、チェックすることで利用者にもその施設をよく知ってもらう、よりよいあり方を考えて貰う、という効果もあります。


「図書館が市民を育てる」→「市民が図書館を育てる」→「図書館が市民を育てる」という具合に効果を上げて行くことを期待するわけです。


そして、3月21日に静岡市御幸町図書館で実際に使ってみました。今回は、塾生の作った項目が適正かどうか、実際に使ってみてチェックする意味もある「パイロット事業」として考え、市内や近隣の図書館関係者や市民グループに参加を呼びかけました。


やってみていろいろなことがわかりました。


第1に、「通信簿」片手に図書館を歩き回ってチェックする、というやり方は、アンケート用紙を机の上で書くのとは全然違う、ということです。「こんなものがあった」「これは知らなかった」というような回答が幾つもあって、利用者が、図書館の新しい面をを発見していくのがわかりました。


開始前に館内放送を流して参加を呼びかけたら、数人集まってくれました。一般の利用者でも興味は持つようです。図書館サービスを市民に知らせる---それも探検みたいに楽しみながら---という、いいイベントになりうると思います。


第2に、図書館職員と市民が協力して行うことが出来た、という点です。思いがけない発見があったのは、何も参加者だけではありません。評価項目を作る過程で、塾生から、市民目線で図書館を見直す大切さを再確認できた、という感想があがりました。評価とか通信簿とかいうと、どうも批判的なイメージになりそうで、だから図書館の側は、市民参加の評価ということに警戒感を募らせがちです。しかし、評価されるという図書館にとって一方的な受け身のイベントではなくて、参加者と協動で図書館づくりをすすめていくものだ、ということは、充分PRしていけるでしょう。


反省も幾つかありました。矢張り、ざっと見回っただけでは評価のしようのないものもあるのですが、それを盛り込めませんでした。また、評価は通信簿の冊子に直接書き込んで貰う形式だったので、参加者は持ち帰れません。なので、私たちがせっかく参加者に読んでもらいたいと入れておいた、図書館の五原則や図書館の自由宣言などは、ほとんど読んで貰えませんでした。


そんなことをふまえると、事前に図書館側から資料をもらったり、図書館見学ツアーとセットにして、説明を受けてから評価するやり方の方がよかったかと思います。項目についても、まだまだ改善が必要です。


しかし、何はともあれ、「利用者が図書館を評価する、評価項目は公表する」というイベントは、これからの図書館づくり運動に欠かせないものになると思います。図書館と利用者・市民が、あるいは市民相互が評価軸を共有する事は、議論を有効にするための基礎なのですから。


また、「市民参加」といい「市民と行政の協動」と言っても、それには公共性を頭に置いて行動できる「賢い市民」が前提ですが、そうした市民を育てる機会としても、この「図書館の通信簿」イベントは役立つでしょう。


タマシイ塾は終了となりましたが、塾生やスタッフの有志で、全国にも呼びかけて、通信簿の改訂版を作っていこう、という話が持ち上がっています。まだまだ欠陥のある通信簿を練り直し、鍛え直して、図書館づくりに役立つものにしていきたい。これで終わりにするには余りに惜しいからです。


静岡図書館友の会 佐久間美紀子